
世界的に反トラスト(独占禁止)を求める声が高まる中、Apple がこれまで堅持してきた「囲い込み(ウォールド・ガーデン)」戦略は、大きな試練に直面しています。
EU や日本に続き、ブラジルは App Store における第三者によるアプリ配信の開放を Apple に認めさせた、最新の国となりました。
本記事では、ブラジルにおける最新の政策動向を簡潔に整理するとともに、すでに、あるいは今後第三者アプリストアの開放が進む地域を俯瞰し、なぜこの動きが世界的な潮流となりつつあるのかを解説します。
ブラジルでは App Store の何が開放されたのでしょうか?
Apple はこのたび、ブラジルの経済防衛行政委員会(CADE)と和解に達し、数年にわたって続いていた独占禁止法に関する調査が終了しました。
最大のポイントは、Apple が 105 日以内に iOS を調整し、ブラジルの iPhone ユーザーが第三者の App Store を利用できるようにすることを約束した点です。
ここで言う「第三者 App Store」とは、Apple 公式の「App Store」アプリを経由しなくても、iPhone にアプリをインストールできる仕組みを指します。
開発者は App Store に類似した配信アプリを独自に開発し、他の開発者のアプリを掲載して、iPhone ユーザーに提供することが可能になります。
さらに Apple は、ブラジルの開発者に対し、アプリ内に外部リンクを設置し、Apple 以外の決済手段へユーザーを誘導することも認めました。
これにより、ブラジルのユーザーは今後、公式 App Store のみに制限されることなくアプリを入手できるようになり、開発者側もより柔軟な収益化の選択肢を持つことになります。
現在、第三者 App Store を認めている地域はどこでしょうか?
2025 年末時点で、Apple に対し「アプリは公式 App Store 経由のみ」という制限の緩和を求めた主な地域は、以下の 3 つです。
EU
- 遵守法規:デジタル市場法(DMA)
- 内容:サイドロード、第三者アプリストア、第三者ブラウザエンジンを許可しています。
日本
- 遵守法規:モバイル・ソフトウェア競争法
- 内容:第三者ストアと外部決済を認めていますが、Apple は比較的厳格なセキュリティ審査権限を維持しています。
ブラジル
- 根拠:独占禁止に関する和解協議
- 内容:第三者ストアと外部決済リンクを認め、ユーザー体験を損なう意図的な障壁を設けないとしています。
※「サイドロード」とは、App Store を経由せず、アプリのインストールファイルを直接 iPhone に取り込んでインストールする方法を指します。
なぜ世界は「第三者 App Store」を求めているのでしょうか?
これまで Apple は、「セキュリティ」と「プライバシー保護」を理由に、iPhone への外部アプリのインストールを厳しく制限してきました。
それにもかかわらず、各国政府が開放を求める背景には、主に次の 3 つの理由があります。
1. 独占構造と「Apple 税」の是正
最も大きな理由は、Apple が長年、開発者に公式のアプリ内課金システムの利用を事実上義務付け、15~30%の手数料、いわゆる「Apple 税」を徴収してきた点です。各国の規制当局は、これを独占的な行為と判断し、第三者流通を解禁することで競争を促進し、最終的には消費者の利益につながると考えています。
2. 公正な競争環境の確保
App Store が唯一の配信経路である場合、Apple は「審査を行う立場」であると同時に、「自社サービスを提供する競争相手」でもあります。Spotify や Epic Games などの企業が長年指摘してきたように、この構造は不公平だとされており、第三者ストアの開放によって開発者の選択肢が広がります。
3. 消費者の選択権を守るため
Mac では自由にソフトウェアをダウンロードできるのと同様に、iPhone を購入したユーザーにも「どこからアプリをインストールするか」を選ぶ権利があるべきだ、という考え方があります。
ハードウェアメーカーによって利用方法が完全に制限されるべきではない、というのが各国規制当局の共通した認識です。
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