
現在、iPhone の「衛星通信」は主に緊急時の救助に使用されています。モバイル通信やWi-Fiが利用できない状況でも、衛星を介して救難メッセージを送信することができる機能です。
しかし、Bloomberg の著名記者マーク・ガーマン(Mark Gurman)氏による最新の報道によりますと、Apple はこの衛星通信の活用範囲をさらに広げ、5つの新しい衛星接続機能を開発しているとのことです。さらに、開発者向けに「衛星 API」を提供する計画も進めており、衛星通信を「緊急用のツール」から「日常生活の一部」へと発展させようとしています。
Appleは5つの衛星連携機能を開発中です──救命から日常利用へ
Apple は 10 年以上前から衛星通信技術の研究を始めており、当時は Google の親会社である Alphabet からエンジニアを招き、iPhone を直接「宇宙インターネット」に接続できるようにする構想を持っていたそうです。
しかし、実際に導入するには技術的なハードルが高すぎたため、より現実的な方向に切り替えました。それが、iPhone 14 シリーズで初めて搭載された「衛星 SOS 緊急サービス」です。
この機能では、携帯電波や Wi-Fi が届かない場所でも、iPhone のアンテナが衛星と直接通信して緊急メッセージを送ることができます。現在は日本、アメリカ、ポルトガル、ニュージーランド、スイスなど17か国で利用可能です。

日常利用を目指す5つの新しい衛星機能
ガーマン氏のニュースレター《Power On》によりますと、Apple 社内では現在、衛星通信をより日常的に使えるようにするための5つの新機能が開発されています。
1. Apple マップの衛星ナビゲーション
将来的に、Apple マップは衛星通信を介して直接データを取得できるようになる見込みです。これにより、完全にオフラインの環境でもリアルタイムで地図情報や位置データを更新できるようになります。
登山やキャンプ、長距離ドライブなど、通信圏外での活動において大きな利便性をもたらすことが期待されています。

2. メッセージで写真を送信できるように
現在の「衛星 SOS 緊急サービス」では短いテキストメッセージのみ送ることができますが、Apple はこれを拡張し、画像の送信にも対応させる予定です。
これにより、電波が届かない場所でも現場の写真を添えて救助を要請できるようになります。
また、日常の場面でも、たとえば旅先で一時的に圏外になったときに衛星経由で写真を送るなど、利用範囲が広がることが予想されます。

3. 「空を探す必要がない」自然な通信
現在の衛星通信機能では、屋外で端末を空に向けて安定させる必要がありますが、Apple はこれを改良し、より自然で直感的に使える「Natural Usage(ナチュラル・ユージッジ)」機能を開発しています。
この機能によって、ユーザーがどこにいても自動的に衛星と接続できるようにすることを目指しています。

4. 5G NTN(非地上ネットワーク)の統合
5G 通信と衛星接続を組み合わせることで、基地局の通信範囲を衛星で拡大する構想も進められています。
これにより、遠隔地でも通信が維持され、「圏内なのにネットに繋がらない」という問題を改善できる見込みです。モバイル通信全体の安定性が向上することが期待されています。

5. サードパーティ向けの「衛星 API」
Apple は、外部アプリ開発者が衛星通信を利用できる API を提供する計画も進めています。
これにより、多様なアプリが衛星通信を活用できるようになりますが、Apple はセキュリティや通信帯域の制限などを考慮し、厳しい審査と管理を行う方針のようです。
プロジェクトを率いるのは「衛星接続グループ(SCG)」です
これらの新しい機能の開発は、ハードウェア部門のベテランであるマイク・トレラ(Mike Trela)氏が率いる「Satellite Connectivity Group(SCG)」によって進められています。
このチームは、iPhone や Apple Watch Ultra 3 の衛星通信機能の開発を担当したグループでもあり、現在は iPad への応用も検討しているとのことです。
Apple は自社衛星ネットワークを構築するのでしょうか?──経営陣は慎重な姿勢です
現在、Apple の衛星通信サービスは、アメリカの低軌道衛星通信企業 Globalstar によって支えられています。
社内ではかつて、自社で衛星ネットワークを運用し、Globalstar や SpaceX といった外部企業への依存を減らす案も検討されました。しかし、経営陣の多くは「Apple は通信事業者ではなく、通信事業者のように振る舞うべきではない」と考えており、現時点でその計画は進められていません。
一方で、ガーマン氏は、SpaceX が Globalstar を買収した場合、Apple の衛星サービスの拡大とアップグレードが加速する可能性があると述べています。
ただし、その場合、Apple は自社の衛星通信における立ち位置やビジネスモデルを再評価する必要があり、「自社運用」と「外部提携」のバランスをどのように取るかが今後の課題となるでしょう。
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