昨年、Apple が雄心を抱いて投入した革新的な空間演算製品 Apple Vision Pro。これにより従来にない MR 体験が可能になったものの、あまりにも高い価格、初代機ならではの課題、さらには応用シーンが限定されていたことが重なり、普及するには至らない運命を辿った。発売からわずか一年にも満たず、その熱は急速に冷めてしまった。
ところが、Bloomberg の最新報道によれば、Apple はどうやら Apple Vision Pro の開発計画を全面的に凍結し、その代わりに開発の焦点を「スマートグラス」へとシフトさせつつあるようだ。これにより、Apple が「空間演算」の位置づけおよび戦略を見直していることが浮き彫りになっている。
Apple Vision Pro は最初、2023 年の WWDC で正式発表され、その後 2024 年初頭から各国で発売された。しかし、価格は驚きの高価格設定で、ほとんどのユーザーを遠ざけてしまった。市場の熱は想定よりも早く冷え、現在ではほとんど注目を集めていない。さらに、サプライチェーンの情報によれば、Apple は 2024 年末にはすでに Vision Pro の生産スケジュールを縮小し始めていた。冷えた需要と部品在庫の過多がその原因とされている。
複数の市場調査機関によれば、Vision Pro の世界初年度の出荷量は、iPhone の初年度販売量の 1 %にも満たないと推定されている。また、ユーザーの反応も極端だった。体験そのものは驚異的だという声もある一方で、「重すぎる」「熱くなる」「バッテリー持ちが短い」といった問題も並存し、本製品を「三分熱」という表現で一蹴する意見もあった。本来は革命的な「空間体験」を担うはずだったが、結果的には日常化するには至らなかった。
さらに、コンテンツのエコシステムが十分でないことも、急速に関心が失われた大きな要因の一つだ。空間演算の性質を十分に活かせるアプリケーションはまだ少数にとどまり、ほとんどが展示レベルに止まっている。ユーザー基盤が小さいゆえに、開発者が投資するインセンティブも乏しく、ソフトウェアのエコシステムが育ちにくいという構図になっていた。
他方、Meta の Quest 3 や Quest Pro といった製品は、より手頃な価格で継続的に改良を重ねて市場に投入されており、ヘッドマウント型 MR 端末市場を分かち合っている。これにより、Apple Vision Pro の立ち位置は一層孤立かつ高価格なものと映ってしまった。
もちろん、最終的には Apple も営利企業である以上、収益性のない製品を継続する意味はない。こうした市場環境を前に、Apple は戦略を見直さざるを得なかった。Bloomberg の最新報道によれば、Apple はどうやら Apple Vision Pro に関する生産および開発計画を全面的に中断しており、噂されていた 「Apple Vision Pro 2」や、より普及価格帯を狙った 「Apple Vision Air」もすでに開発が停止されているという。
とはいえ、先に米国連邦通信委員会(FCC)に提出された資料からは、M5 チップを搭載した改良型バージョンの計画がまだ存在する可能性が確認されている。改良の重点は M5 チップの刷新と新型 Dual Knit ヘッドストラップへの更新であり、外観は変えず、性能はわずかにアップグレードという構成だ。しかし業界関係者の間では、これはむしろ製品寿命を延ばし、既存在庫を消化するための過渡的な手法だと見る向きが強い。
その一方で、Apple はさらなるリソースを新領域の “スマートグラス”開発へと注ぎ込みつつある。より軽量かつ日常使い可能な形で、空間演算体験を再定義しようという狙いだ。業界では、このスマートグラスが Apple Intelligence など次世代 AI 技術と融合し、Apple にとって次の主要なウエアラブル プラットフォームになると予測されている。
Apple Vision Pro は主流製品にはなり得なかったが、ハードウェアやインターフェース設計において Apple にとって重要な試みであったことは間違いない。おそらく、Apple はこの経験を通じて空間演算技術を蓄積しており、これらの技術が将来のスマートグラスやその他ウエアラブル機器において鍵となる可能性は高い。
AI とマイクロ化技術の進歩に伴い、Apple が真に実現したいのは、頭にかぶるタイプのコンピュータではなく、デジタル情報が自然に日常生活の中に溶け込むような体験だろう。Apple Vision Pro の退場は、むしろ Apple の “空間演算” が成熟へと進む 第一歩 を示しているのかもしれない。
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